King and the Dragonfly by Kacen Callender レビュー  【書評】【英語多読】

・あらすじ

アメリカ南部で黒人の家庭に生まれ、兄をつい最近亡くした思春期(10歳くらい)の少年が、兄の死、そして自分自身や周囲と向き合いながらそれを受け入れていく物語。黒人やゲイに対する差別というものが、この物語の下敷きとして存在し、そうした差別のある環境の中で、どのように折り合いをつけていくのか、ということを真剣に考えた物語である言える。

 

・構成

主人公であるKingの一人称で常に話が進む。文体にはKingの思い込みや意図的なごまかしなどが多分に含まれるので、物語が進むにつれて、周囲についてだけでなくKing自身についてもだんだんといろいろなことが明らかになっていくという構成になっている。また、死んだ兄の夢の話が物語全体に渡って語られ、幻想的な雰囲気、何が現実で、何が夢か分からないような感触が本編全体に漂っている。一方で、Kingが向き合う現実は徹底的にリアルなものとして描かれ、分かりやすい救いの手、救世主的な解決は最後まで与えられない。この対比がこの物語の面白いところだと思う。

 

・面白いと思った点

徹底してKingの苦しい胸の内が明かされ、救いが最後まで与えられないところ。またKingたち子供では解決できない問題も与えられ、それに対しては最後まで苦悩せざるを得ない。徹底してリアルに踏みとどまり、それに対して一応の回答を与えたことが、この物語の著者の誠実さであり、最も評価されるべき点だと思う。