ゲームにおけるランダム性について

こんにちは。備忘録も兼ねてゲームにおけるランダム性について考えたことを書きたいと思います。
まず、ランダム性とは何かについて定義してみましょう。ゲームにおけるランダム性とはプレイヤーに予測不可能な情報です。この定義では、ゲームが始まる前にあらかじめ決まっている要素は全てランダム性から除外されます。
ランダム性には公開性のものと非公開性のものがあります。公開性のものはプレイヤーが意思決定を行う段階で公開されているもの、非公開性のものは公開されていないものです。例えば、カタンの初期配置やドミニオンの王国カード、麻雀の初期牌は公開性のランダム性ですが、カタンのチャンスカードや麻雀で次にどの手牌をツモるかは非公開性のランダム性です。
ランダム性はなぜゲームに必要とされているのでしょうか。ランダム性が全くないゲームもあります。例えば、将棋や囲碁がそうですね。ですが、ゲームと呼ばれるものの大半にはランダム性があります。ランダム性の利点は大きく二点あると思っています。一点目は毎回違ったゲーム展開になることです。毎回違ったゲーム展開になることで、プレイヤーの探究心を刺激したり、飽きを阻止することができます。二点目は、実力が劣ったプレイヤーや、ゲーム状況が劣勢のプレイヤーでも勝てる可能性を作ることです。この利点は、特に三人以上で対戦するゲームで顕著です。二人で対戦するゲームでは、負けが確定している状況なら投了すればいいだけですが、三人以上で対戦している状況では、自分が投了することで誰がゲームの最終的な勝者になるのか決めてしまう可能性があるので、そうもいきません。そうした時に、ランダム性が無いゲームでは負けているプレイヤーはとても惨めな気分を味わうことになるでしょう。ランダム性によって、最終盤まで誰が勝者になるかわからないような、面白い展開を生みだすことができます。
ランダム性はどのようにデザインすることができるのでしょうか。ランダム性はその性質上個々のゲームプレイという観点からは制御することが極めて難しいです。しかしながら、全体的なゲームデザインの観点からはある程度の制御をすることができます。こうした制御の仕方には大きく三点あると考えています。
まず一つ目は、ゲームレンジによる調整です。一般にプレイヤーがゲーム終了までにランダム性の伴う意思決定を行う機会が多ければ多いほど、確率は収束し、ランダム性がゲームに及ぼす影響は小さくなります。二つ目は、最終的な勝敗を決定するまでに行うゲームの回数による調整です。テニスなどのスポーツでも見られる通り、勝敗を決めるまでに複数のゲームを行うようにすることで、ランダム性が勝敗に及ぼす影響を小さくできます。ところで、ランダム性によってもたらされる利得と損失を正しく評価できているプレイヤー(=実力者)は、そうでないプレイヤーより正確な期待値的計算ができます。試行回数が多いほどそうした期待値的計算に基づいた決定が結果に表れる確率は増えていくため、これらの利点は、確率の収束という要因以外にも、より実力を反映したゲーム展開に繋がる可能性が高いでしょう。
三つ目はこれまでのものとはやや毛色が違います。
拡大再生産型と呼ばれるゲーム、すなわち、ゲーム長引けば長引くほどプレイヤーがゲーム内で扱うリソースと選択肢の数が増えていくようなゲームでは、ランダム性は優勢のプレイヤーに味方します。いちばんわかりやすいのはカタンの例でしょう。開拓地をより多く展開し、資源が得られるサイコロの目の数が多いプレイヤーの方が、サイコロの目の偏りから利得を得る確率は高いです。
ゲームそのものの性質によってランダム性が優勢のプレイヤーに味方をするゲームは、劣勢のプレイヤーの逆転が極めて難しいゲームといえるでしょう。このことは、ランダム性をゲームに持ち込む利点の二点目を自ら打ち消しているようなものです。せめて、優勢のプレイヤーと劣勢のプレイヤーがランダム性の観点からは五分五分か、少し劣勢のプレイヤーに有利なように制御しなければ、最後まで全員が楽しくプレイできるようなゲームになる確率は低いでしょう。
拡大再生産ゲームとは、プレイヤーが以前に下した意思決定の結果によって、現在の意思決定で選べる選択肢の数が変化するゲームのことです。拡大再生産ははっきりそうとわかるゲーム以外でも、ほぼ全てのゲームが含んでいる特性です。ランダム性の統御の仕方として、そもそもゲームから拡大再生産要素を意識的に取っ払ってしまうことも考えられます。例えば、いわゆるカードゲームの場合なら、コストを支払わず打てる強力なドローを導入したり、毎ターンお互いのプレイヤーが引ける枚数を増やし常に手札にカードが余るような状態にすれば、ある程度拡大再生産要素を取っ払うことができます。ですが、こうした効果はゲームをデザインする際の最も重要な要素であるプレイヤーが利用できるリソースを限定することと極めて相性が悪かったりして、全体としてバランスがとれたゲームにすることは至難の技でしょう。
ではどうするか。大きく二点あると考えます。まず一点目はゲーム内のリソースに再還元不可な勝利点を導入することです。例えば、ドミニオンの勝利点カードなどはこの典型例です。「ゲーム内リソースを増やすこと」「勝つこと」が分離されているゲームは、「勝つこと」の方に細工をすることによって、ランダム性を調整することができます。
二つ目は、 増やせるリソースに閾点を設定することです。閾点とは、その地点までリソースが増えればそれ以上ゲームの勝敗に関わらなくなる点のことです。例えば、アグリコラで家畜や作物の数がある程度以上に達するとそれ以上点数に繋がらなくなります。
それでは。