英語多読 読書感想 「The shining」

原書でスティーブン・キングの名作「The Shining」を読み終わったので、感想+考察を書いてみたいと思います。
スティーブン・キングの小説には、通底してある特定の場所に超自然的な悪意が確かに存在するということが仮定されていると思います。たとえば、「11/22/63」で、オズワルドがいる教科書倉庫に主人公が入っていくシーンにおいて、倉庫に邪悪な意思が存在することを主人公が感じ取る場面があります。ただその悪意はそのままの形では現実には出てこれなくて、人の意思の弱さや無関心といったものを経由する必要がある、というのがキングの考えなんだと思います。「IT」では幕間部分で義理の息子を殺した父親が出てきますが、それはキングがよく小説に登場させるデリーという町に潜む邪悪な悪意が乗り移った存在であると、そういう解釈を示唆する描き方をされています。「The Shining」はまさにそういうテーマの原型ともいうべき小説で、舞台がオーバールック・ホテルという冬はあまりに雪が積もるために閉まってしまう、過去にいろいろと凄惨な事件が起こった山中のホテルになっています。そこにアルコール依存だが断酒中で、十分家族思いといえる父親と、母子が冬の間の管理維持のためにやってくると。そしてホテルが父親に影響を及ぼし、だんだんと父親が狂っていく様子が描かれるわけですね。
まずこの小説は、アルコール依存というものがどういうものなのかある程度分かっていないとよく分からないと思います。アルコール依存は病気であって、単にお酒に溺れてしまう意思の弱さとは全く違うのです。自分の意思に関わらず、飲みだすと止めることができず、普段絶対にやらないようなことでもやってしまう。実際、この小説の父親であるジャックは過去に赤ん坊だった息子の腕の骨を折っています。じゃあアルコール依存は克服できないかというとそんなことはなく、最初の一杯を決して飲まないことで克服できます。実際、ジャックは狂わされますが、最後まで自分からはお酒に手をつけていません。
ジャックは一度は文学の道を志し、雑誌に自分の作品を載せるまでいくのですが、中学校の教師をやっている間に酒で身を持ち下し、生徒との間に暴力沙汰を起こしやめさせられます。学校に勤めている間に飲み友達となっていた学校の出資者で金持ちのボンボンに世話してもらって、ホテルの冬季管理人の職を一冬の間することになるわけですね。
題名の「Shining」というのは5歳の息子のダニーが持つ一種の超能力のことで、予知覚に加えテレパシーと読心術が使えるという感じです。超能力を持つことは必ずしも必ずしもいいことだけではなく、まだ小さい子供なのに両親の間の不和がわかってしまったり、大人の邪な感情も敏感に伝わってしまいます。作中ではダニーの持つ力がホテルに巣食う邪悪な力を呼び覚ましてしまった、という描かれ方をしています。
妻のウェンディは実家の母親と折り合いが悪く、ジャックがホテルで仕事をしている間だけ実家で過ごす、みたいなことかできません。ウェンディの母親は今で言う毒親で、子供を自分の所有物としか見れない人です。ウェンディは母親の性質の一部が自分にもあるのではないかと怯え、ダニーが自分ではなくジャックの方に懐いていることに心のどこかで嫉妬を感じています。
この小説の上手いところは、超自然的な恐怖が現実に存在する不安や障害と地続きで描かれることだと思います。アルコール依存という病気の、自分自身でもコントロールできない衝動に対する恐ろしさと、ホテルに巣食う亡霊に狂わされていく過程。夫婦それぞれの胸に渦巻く相手への疑念が、いるはずもない女の幽霊を見たことで爆発する…
この小説にはもう1人、重要な登場人物が出てきます。それはホテルが開いている間コックをやっていて、ダニーと同じくShining能力を持つ黒人のディックです。ダニーは物語の冒頭で彼と友達になり、終盤、本当に助けが必要な時に彼に念を送ります。果たしてディックが間に合うのか、というのがハラハラさせるところですね。
この小説を評するなら、「正統派のホラー」と
言えると思います。キングは、家庭内暴力のような、愛しているがゆえに逃げられないねっとりとした恐怖も描けるはずですが、この作品ではそれは出て来ません。登場人物全員が、なにかしら問題を抱えながらも最後には恐怖に打ち勝つさまが描かれます。そういった意味ではヒューマンドラマでもあり、幅広く楽しめる作品だと思います。少なくとも僕は小野不由美の「屍鬼」が全く楽しめなかったくらいにはホラーは肌に合わないのですが、本作は楽しんで読み進めることかできました。まだキューブリックの映画の方は見ていないので、機会があれば見てみたいと思います。
それでは。